Special : 『MS IGLOO2 重力戦線』第1巻発売記念! 『MS IGLOO2』&『U.C.HARDGRAPH』開発スタッフ集結 モデラーズ座談会 第2回

 『MS IGLOO2 重力戦線』(以下『重力戦線』)と『U.C.HARDGRAPH』の開発に関わるスタッフが集まったモデラーズ座談会。第2回目となる今回は、『重力戦線』の映像に関する話題を中心にお届け。さらなる進化をはたしたCG制作の裏側や『U.C.HARDGRAPH』のフィギュアとの関係性、そして迫力の増した戦闘シーンの演出などを、モデラーという視点から語ってもらった。
 『重力戦線』と『U.C.HARDGRAPH』という2つの作品を多角的に味わうためのサブテキストとしても、楽しめる内容となっているはずだ。

■座談会参加メンバー

藤竹均
バンダイホビー事業部・『U.C.HARDGRAPH』シリーズ設計担当。25歳。

山田卓司
月刊ホビージャパン、テレビ東京『TVチャンピオン』出演などで活躍中のプロモデラー。『U.C.HARDGRAPH』シリーズでは、パッケージ用作例制作を担当している。49歳

清水英男
CGオペレーター、CGデザイナー。『MS IGLOO2 重力戦線』では、3DCGワークスとメカモデリングチーフを兼任。41歳

上地正祐
CGオペレーター、CGデザイナー。『MS IGLOO2 重力戦線』では、3DCGワークスとキャラクターモデリングリードを兼任。25歳

岩切泰助
サンライズD.I.D.スタジオ。『MS IGLOO2 重力戦線』と『U.C.HARDGRAPH』では設定制作を担当。29歳

 

――今回の『重力戦線』で、キャラクターのモデリングをするにあたって、前シリーズとはキャラクター制作に違いがあるんですか?

清水:『重力戦線』でも、前のシリーズ同様にモデルの方の体型や顔をスキャンしてデータを取っています。そのモデルさんのスキャンデータをもとに、上地をはじめとするキャラクターのモデリングの担当者たちが、演出のイメージに合わせて、登場キャラクターとしてモデリングを作成していきます。

上地:キャラクターのモデリングは、例えばスキャンするモデルの方がヒゲを生やしていても、本編に登場するキャラクターにヒゲのない場合は、ヒゲをなくした形でモデリングしたりとか、逆にヒゲを生やしたりすることもありましたね。

藤竹:人物のスキャニングは、黒いと形を取りにくいって話を聞いたことがあるんですが、そのあたりでも苦労されているんですか?

清水:黒くてツヤがあるものは、かなり写りにくいですね。光学式の測定器を使って、レーザーを当てて人物をスキャンするので、ツヤが無くて白っぽい色のもの、例えば洋服の形状やシワは、形状をよく捉えられるんです。逆に髪の毛やヒゲなんかは、形状スキャンがしにくくてそこだけデータに穴が空いてしまうんですね。

上地:なので、『重力戦線』ではルイス役の黒人モデルの方のスキャンが大変でした(笑)。

岩切:どうしても形が出ないので、ベビーパウダーを塗ってもらってスキャンしたくらいですからね(笑)。

――黒人の方は、本当にスキャンするのは難しいんですか?

上地:最初、なかなか形状が出なくて困りましたね。

岩切:前のシリーズを通しても、黒人の方は初めて登場するキャラクターだったので。黒人というだけでなく、アゴにヒゲを生やした方だったので、余計に大変でしたね。アゴのラインがちゃんと出るようにベビーパウダーをたくさんつけてそれでようやく録れたんですが、それでも穴がたくさんありましたね。

上地:そうでしたね(笑)。結局、最終的には写真を見ながら、穴の開いた部分はモデリングを修正していますね。

藤竹:そのモデリングしたデータを、バンダイホビーセンターにいただいて光造型で立体として出すんですが、データを見せてもらう時が結構楽しいんですよね。ものすごくリアルに顔が立体データとして存在しているので。そして、それが光造型によってそのまま立体物になるのはある意味感動しますよ。

清水:私たちも、モデリングしたデータを光造型で立体化したものを見せてもらいますが、本当に面白いですよね。今まで慣れ親しんできた1/35スケールのミリタリーフィギュアと、実際の人間をそのまま1/35スケールに縮小したものを並べてみると、思いの外体型が違っているんですよね。だから、1/35スケールにするときは、いろいろとディフォルメされているんだなと初めて気付いたりしましたし。

岩切:スキャンデータそのままに1/35スケールにすると腕や首が細かったり、服のシワが消えてしまったりしていたんですね。実際の1/35スケールのフィギュアは、誇張表現によってそれらしく見えるように作られているんだと、見せてもらって初めて判りましたね。

清水:思っている以上に頭身が高くて格好良かったりするんですよね。

岩切:顔がものすごく小さかったりしますからね。

清水:要するに印象なんですよね。フィギュアにする時は、そっくりそのまま小さくできるわけはないですから。でも、実際の頭身と比べると、格好良くないフィギュアの方が馴染めるんですよね。多分、印象として人の顔はもっと大きく感じているとおもっているからなんでしょうね。

山田:一部のフィギュアモデラーの中は、造型師が作った原型ものじゃなくて、デジタルスキャンしたもののほうがいいという幻想を抱いている人もいるんですよね。僕は、それは違うと思っているんです。デジタルスキャンしたものでは、1/35スケールに必要な記号みたいなものが欠けていて、自分の欲しい、表現しようとするものにはならないんですよね。

岩切:映像でもスキャンした身体をそのまま使うことは絶対になくて、必ずバランスをとるんですが、そこに通じるモノがあるかもしれないですね。

山田:顔に関しては、デジタルスキャンした方がいい場合もあるとは思いますけど、そうなると今度は肖像権の問題も出てくるし、その人の演技力によって人形の内容が変わってしまうようにも思います。だから、僕はデジタルスキャンのフィギュアには、可能性はあると思いますが、そのまま使うという部分には魅力をあまり感じませんね。

藤竹:利点としては、早く作れるという部分があります。『U.C.HARDGRAPH』の初期では、フィギュアに3Dスキャンを使用せずに、原型師の方にゼロからフィギュアを造型してもらったのですが、形状やポーズの監修作業が間に挟まった結果、スケジュールを圧迫してしまったんですね。それが、3Dスキャンによるベースとなるものがあると、ポーズや服装といった表現の監修や意見出しを先に行うことができて、飛躍的にフィギュア制作にかかるスピードは上がっています。

山田:融合というか、両者の併合というのがやはりベストですよね。どちらか片方に比重を置いてしまうと、やはり問題が起きやすいですから。

藤竹:『U.C.HARDGRAPH』シリーズのフィギュアの転機となったのは、やはり『サイクロプス隊セット』だと思いますね。顔の作り込みに時間をかけられるようになりましたから。おかげで、次の『61式戦車5型 “セモベンテ隊”』に至っては、すごく渋いキャラクターが出来上がったなと。

 

岩切:『対MS特技兵セット』や『サイクロプス隊セット』あたりから、全身スキャンを撮るようになって、原型制作もやりやすくなったんじゃないかと思いますね。実際にフィギアを立たせた時の印象が変わりましたからね。

藤竹:3Dスキャンモデルを光造型で出力した時に一番感激するのが、立ち姿なんですよね。フィギュアが普通に立っているだけなんですけど、身体の重心を片足にかけて立っていて、その佇まいがすごくリアルなんです。普通のフィギュアだとそうした重心バランスは表現されていないことがあるんですが、改めて「人間ってこうやって立っているんだ」と思える形状に感動したことがありますね。

――フィギュアの話で盛り上がりましたが、話題を『重力戦線』本編のキャラクター造型に戻したいんですが、今回のシリーズでは他にも新しい要素があるんですよね?

上地:今回は、髪の毛の表現が前シリーズと全然違います。前の時は、透明な板に髪の毛の絵が描かれているものを貼って、そのパターンを変えて動いているように見せていたんですが、今回は1本ずつ本当に生やして動かしているんです。表現としてはリアルになるんですが、頭皮が透けて見えたりすることもあって、そうした部分を誤魔化すのに苦労しましたね。

清水:作業的には、ガイドとなる髪の毛を1本ずつ作って、その後モデリングデータの上に「ここからここまで間を埋めるように、ガイドの髪の毛と同じ形で生やしなさい」という命令をコンピュータに入力して作業していくんです。とにかく、1本ずつ作らなくちゃならないので、髪型が複雑だったり、長髪のキャラクターだとなかなか難しいことになってしまうんですね。

藤竹:それこそ、死神の髪の毛なんかは、すごく大変なんですね?

上地:あんな風になびいたりする髪の毛は、すごく大変です。逆にルイスみたいなチリチリの頭だと簡単なんですけどね。あまり動かないですから。一度試しに動かしてみたらすごいことになっちゃいましたけどね。アフロヘアーみたいな爆発頭になっちゃって(笑)。

 

山田:まあ、あまり現実では動かないですからね。

岩切:とは言っても、今回は地上が舞台なので風がありますからね。

山田:そうですよね。風と空気と土埃とか。見ている側からも大変なのがわかりますよ。

清水:そうですね。演出さんが「なんか困ったら、土煙を立てて誤魔化せ」みたいなことを言われることもありますが(笑)。そうした表現で、空気感が出ればメリットもあるかもしれないですが、やはり地上は色んな意味で表現の手間が増えていますね。

上地:宇宙空間が恋しくなりますよね。

清水:星だけを描くのがどんなに楽だったか、今になって痛感しています(笑)。

――朝、昼、夜と時間の経過で風景の見え方もかなり違いますからね。

上地:そうですね。夕方と昼間では全然表現が違いますからね。そうした違いを出すのも大変でした。

岩切:中でも夕景の丘の上のシーンは大変でしたよね。

 

上地:背景にすごい数の兵士がいますからね。最初に配置したのは100体くらいだったんですが、演出さんに見て貰ったら「倍にして欲しい」と言われて200体になって、次のチェックでさらに倍に増やすことになったので、最終的には400体もの兵士が配置されているんです。

清水:同じモデリングの兵隊を並べると、遠景で小さいとはいっても結構わかってしまうので、最終的には同じものが連続しないように配置していって、本当に巨大なジオラマを作っているのと変わらない感じでしたね。

――こういう映像を見せられると、やはりモデラーとして創作意欲をかきたてられてたりしますか?

山田:そうですね。僕らはスケールモデル基本でやってきたので、こういう映像を見ると舞台となっている地域によって異なる土の色とか、季節によって変わる土や泥による汚れなんかが気になるんですよね。そういう部分も含めて、僕は映像でもリアルを目指して欲しいという願望があるんですよね。効果的に見えづらくてもリアルに表現してほしい。実際にガンダムがこの世に存在していないので、いかにも本物がどこかにあるように見せてもらえるといいなと。例えば、特撮『サンダーバード』を例に出すと、あのメカはリアルだって言われるじゃないですか。でも、あれは模型的にリアルな表現をしているのであって、実際にはリアルではないと思うんですよ。そうした方向ではなくて、実際に街の中にいる、存在としてのリアル感を描いて欲しいんですよね。もちろん、それだけが目的になってしまっては困るんですけど。描きたいストーリーや世界があって、あくまでそこに付随する形でリアルを追求してほしい。現実に20メートル近いロボットが歩き回っている世界ってやっぱり見てみたいですからね。

清水:アニメーションは、視聴者にどう見えているかを想像しながら作るんですけど、CG映像ではデータが存在する世界にモビルスーツは18メートル、人間は180センチと指定してカメラを置いて、計算上では正確に対比させた映像を作ることができるんです。

山田:18メートル大のロボット同士が戦う時は、ロボットの視点でよかったんですが、『重力戦線』は、人間対怪獣に近い、人間と巨大兵器の戦いが絶望的で素晴らしいなと思うんです。同じ大きさのもの同士なら、多少の能力差があってもなんとかすれば勝てそうですが、大きさの比率が10:1という差は簡単には埋まらないし、その戦いがどのようなストーリー展開を伴っていくのかはとても興味がありますよね。

 

清水:今回は、そのあたりの描き込みを丁寧にやっています。モビルスーツがなかった連邦軍が如何にしてザクと戦わなければならなかったのか? そういう状況に放り込まれた兵士はどういう気分なのか? だから、カメラも人の目線の高さからザクを撮ることが多くなるんです。その人たちの恐怖心によって、実際にはどうのように見えるだろうと考えながら作っているんです。映像として肉眼で経験してみないと判らないこともあると思いますが、それを映像で表現するとなると、演出として必要に応じて広角レンズや望遠レンズを使い分けて撮って、そのシーンに効果的な映像を見せるようにしていますね。

藤竹:『重力戦線』のザクは怖いですよね。

山田:テレビシリーズ本編のザクは雑兵的なヤラレメカのイメージしかないんですけど、これはリアルに怖い。

清水:第1話でアムロが「これが、ジオンのザクか……」ってつぶやいたあの世界でだと、最初に人の目線で見たザクはとんでもないものに見えるはずなんですよ。そういう部分の表現は、アニメの絵よりも空気感を持った表現が可能なCGの方が、恐怖感などは描きやすいようには思いますね。巨大なものと小さい人間の間に、どんな説得力を持たせるかが大事。とは言え、本当に軍事的にリアルで描くとすごく殺伐としたものが出来上がる可能性もありますけどね。

――CG映像では、こだわりどころがあれば反対に抜きどころみたいなものもあるんですか?

清水:やっぱり、どこまでもこだわっていると仕事が終わらなくなってしまいますからね。例えば、映画のセットで言えば写らない所の後ろ側は、ベニヤ板のハリボテだという表現は現実にありますよね。CGでも実際に遠くにある木や風景は板ものなんですよ。板のようなものに絵を描いて、並んでいるように配置する書き割りと同じような感じで。もちろん、空や遠くの山までモデリングはしていないという、そうした部分ですよね。もちろん、メカや人でも遠くに配置されているものは軽いデータを使っていますし。そのあたりは、プラモデルとも一緒で、戦車の裏側までしっかり塗装する人ってあまりいないですよね。

山田:裏は、表の汚しの練習に使ったりする程度だからね。

清水:そういう意味では、CGも全部作り込んでいるわけではないんですよね。

 

 最終回となる次回は、実際にCGを立体化している『U.C.HARDGRAPH』の開発に関わる話題にシフト。『重力戦線』と『U.C.HARDGRAPH』の模型的な関係の深さをよりディープにお伝えする予定だ。

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