Special : Interview エンディングテーマ 柿島伸次氏

 『MS IGLOO2 重力戦線』のエンディング曲を担当するアーティストへの連続インタビュー。第2回目となる今回は、第2話『陸の王者、前へ!』のエンディング曲『PLACES IN THE HEART』を歌う柿島伸次さんへお話しを伺った。
 『MS IGLOO』シリーズとしては初の男性ヴォーカリストである柿島さんは、どのようにして、あの切なく悲しい曲を生み出したのか? 柿島さんの音楽へ対する熱い思いを語っていただいた。

 

Profile

柿島伸次

シンガーソングライター。15歳で劇団に入団しテレビや舞台に出演するも、同時にギターに興味を持ち自作曲を作るようになり、19歳で本格的に音楽の世界に飛び込む。1993年に「名前のついていない場所」でデビュー。その後、『オールナイトニッポン』のラジオパーソナリティーとしても活躍する。最近では、アニメ作品やアーティストへの楽曲提供など、幅広いジャンルでの活動を行っている。アニメ関係では、『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』の主題歌『CALL YOU……君と僕の未来』や、『機動戦士ガンダムSEED』の『ニコルのピアノ』などを担当。TVアニメ『天体戦士サンレッド』では、初のサウンドトラックにもチャレンジしている。

柿島伸次 オフィシャルHP
http://www.kakijima.net/

 

――まずは、柿島さんの最近の活動から教えていただきたいのですが、アニメ関係のお仕事をかなりやられていますよね?

柿島:アニメ音楽には、15年くらい前から関わっていますね。最初は『逮捕しちゃうぞ』という作品のエンディングの作曲で、その時に初めて自分の書いたメロディに画が付くということを体験したんです。それが、不思議で嬉しくて感動的だったんですね。それからは積極的にアニメ関係の仕事にも関わるようになりました。
 『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』では、主題歌も歌わせてもらいましたし、最近では『天体戦士サンレッド』でサウンドトラックも担当させていただきました。

――そうしたアニメ関係のお仕事以外に、普段はソロで音楽活動をされているんですよね?

柿島:そうです。ジャンル的にはアメリカンロックを基調としたサウンドが多いですね。僕は、叫べる歌が大好きで、バラードの曲でもどこか叫んでしまうんですよ(笑)。特に70年代〜80年代前半のアメリカンロックが好きで、ボーカルスタイルで言うと、ブライアン・アダムスとかブルース・スプリングスティーンとか、ジャクソン・ブラウンとか。そういうシンガーソングライターが作っている音楽に影響をうけています。だから、自分のライブでも必ずピアノやギターを弾きながら歌いますね。マイクだけでは照れくさくて歌えないんですよ(笑)。

――今回歌われた『PLACES IN THE HEART』は、とても静かな曲というイメージがありますが、普段ご自身が手掛けられている音楽との違いはありますか?

柿島:僕が主にソロで作っているのは元気な曲、ちょっと照れくさいですが夢とか希望とかそういうものをテーマにした曲が多くて、そういう意味では、今まで僕のレパートリーに無かった曲には仕上がっていると思います。

――今回はどのようなオーダーから曲作りに入られたんですか?

柿島:デビューの時からお世話になっている、音楽プロデューサーの野崎(圭一)さんから、今回は「鎮魂歌=レクイエムを作って欲しい」というお話があったんですよ。
 でも「レクイエム」のちゃんとした意味を知らなくてウィキペディアで後から調べました(笑)。そうしたら、「死者の魂をなぐさめ、とむらうこと」って書いてあって。そういう難しい歌は、確かに僕の今までの歌には無かったなって。以前『機動戦士ガンダムSEED』の劇中で、ニコルというキャラクターが死ぬ時に流れるインスト曲も担当したんですが、これともテイストがまた違うし、鎮魂歌=歌が入るという難しさもあって悩みましたね。それに、鎮魂歌というキーワードと一緒に、ロッカバラード(ロックのリズムを持ったバラード曲)でもある、ということを言われていたので、2曲のデモテープを作って選んでもらいました。

――そのうちの1曲がこの曲だったんですか?

柿島:そうです。最初にキーを高めに設定してピアノをメインに2曲作ったうちの暗い方が選ばれまして、さらにキーを下げてみてくれないかと言われて、より暗いイメージに変えていったわけです(笑)。
 僕としてはこんなに低くていいのかな?という感じでしたが、これが作品のテーマに合っている声質とキーなんだよと野崎さんから言われまして。曲のアレンジも僕自身何度かチャレンジしたんですけど、明るすぎると言われてしまって。この曲は、どれだけ暗いんだと(笑)。
 それで、アレンジは西田マサラさんという長年お付き合いさせていただいている方にお任せしました。出来上がった曲を聴いたら、オールストリングス(弦楽器での演奏)の壮大で、重厚なアレンジになっていて、なるほどこういう方向性だったのかと。でも、レクイエムにはとても合うと思ったんですね。

――作詞はどなたが担当されたのですか?

柿島:サヴィッジ ジーニアスのヴォーカルのああちゃんです。彼女が作ってきた歌詞が、また完璧にレクイエムになっているんですよね。こうして出来上がった、詞と曲とアレンジを、スタジオで合わせてみたら、「これだね!」ってことになりまして。なるほど、こういうことをプロデューサーは言っていたんだと納得しました。そうか、僕のじゃOKが出ないわけだと(笑)。

――そういう意味では、今までとは全く違う曲作りになって苦労された感じですか?

柿島:苦労というわけではなくて、求められていたものが、もっと暗くてもっと重厚で、ということだったんですね。今までそういう曲はやったことがなかったので、とてもいい経験をさせていただきましたね。僕が今まで歌ってきた曲を聴いていただけるとわかると思いますけど、必ずどこかに希望めいたものが入っていて、ここまで静かで重厚なものはないんですよね。

――でもその曲の雰囲気が、エンディングの映像とぴったり合っているんですよね。

柿島:そうなんですよね。僕も完成映像を観ながら「これ、ぴったりだな」って思いました(笑)。監督さんもプロデューサーの野崎さんも、なるほど、こういう風にやりたかったんだなって、映像を観た時に初めて判りましたね。逆に、そういう風にまとめていくのも大変だなって。

――プロデューサーのしっかりしたビジョンの中で、みんなで作り上げていった曲なんですね。

柿島:明確なビジョンがあったんだと思います。キーに関しても、アレンジに関しても、最初からまったくイメージがブレていないような気がしますね。
 最初に、僕がアレンジをやろうとした時は、シンセサイザーを使って教会のオルガンをイメージしてアレンジをしていたんですがやっぱり、それも違うなって。それが結果としては、オールストリングスでエレキギターも入らないという、西田さんのアレンジが出来上がってきたわけです。

――そういう意味ではアンプラグド(電子装置を使わない楽器による演奏)な演奏が合う感じの曲になっていますね。

柿島:とてもやりたいですね。オーケストラをバックに、ちゃんと指揮者がいて、ミュージックフェア的にやれるといいですね〜(笑)。

――こうした静かな曲がラストに流れると、より物語の悲しさみたいなのが引き立ちますよね。

柿島:あのラストシーンに流れるピアノのメロディから、違和感なくこの曲に入っていきますからね。あのピアノの楽曲は『MS IGLOO』シリーズのサントラを手掛けた大橋恵さんの作曲なのですが、ピアノは僕が弾いているんですよ。だから、個人的にもラストシーンからエンディングへの流れがとても気に入ってます。

――サントラの演奏にも関わられていたんですね?

柿島:大橋さんが作ったサントラの中で、2曲演奏させていただいているんです。ピアノとギターとブルースハープを担当しました。だから、自分の歌ったエンディングが入る前から、陶酔できてしまうという(笑)。ここで使ってもらえたのは嬉しいですよね。喜びも倍でした(笑)。大橋さんとは『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』でもサントラと主題歌という形でお仕事をさせていただきましたし、まわりに知っている方が多くて、非常にリラックスした状態で音楽作りに参加させていただきましたね。

――実は、男性ヴォーカルは『MS IGLOO』シリーズでは初なんですよね。

柿島:そうなんですか? いや〜、それはとても嬉しいですね(笑)。音楽プロデューサーの野崎さんが、僕を選んでくれた理由は聞いていないんですが、きっと何かしらしっかりとしたビジョンがあって呼んでくれたんでしょうね。だから、あんなに曲作りでも厳しかったのかもしれないですね。最初からブレがない感じでズバズバと言ってきてくれましたからね。

――柿島さんの長いキャリアの中でも、新たな成長に関わるような作品になっているようにも感じるんですが?

柿島:確かにそうですね。自分が成長しきっているとは思わないんですが、「自分の雛形はこうなんだ」って型にはめていることがありますよね。確かに、30歳を過ぎてからくらいはあったかもしれないですが、それを良い意味で壊してくれた作品でもありますよね。完成図がこんな風にあったからこそ、こんな流れでやっていったんだなと、今回はよく判りましたね。

――『機動戦士ガンダム』という作品に関しては、どの程度ご存知ですか?

柿島:僕の世代よりも少し下の人たちが夢中になっていた印象が強いですね。中学生の時に放送していたと記憶していて、ブームになっていたのは知っているんですが、その頃は一生懸命部活をやっていたので、テレビはほとんど観てないです。プラモデルもそんなに作ったりしなかったので。
 だからガンダムについてあまり詳しくはないですが、描かれている世界観はとても判ります。さきほども言いましたが、『ガンダムSEED』の劇中で『ニコルのピアノ』という曲やレイ・ザ・バレルの曲など一連のインストルメンタルをやらせていただいていますので、僕にとってガンダムというのはとても近しい存在ですね。でも、今回のように歌で参加させてもらうのは初めてでしたから、とても光栄ですね。歴史ある作品ですから。

――レコーディングの雰囲気もいつもと違っていたんですか?

柿島:違っていましたね。冗談が飛ばないレコーディングというか。野崎プロデューサーのボーカルディレクションは何度も経験があるんですが、こんなに落ち着いた中で最後まで張りつめた空気感を守り通したレコーディングは初めてでした。とても良い経験をさせていただいたので、これからの音楽活動に活かして行きたいと思います。

――ガンダムシリーズの中で、観たことがある作品はありますか?

柿島:『ガンダムSEED』は観てますね。『IGLOO』は前のシリーズを少しと、今回歌わせてもらったもの(第2話)を観ました。それにしても、今回の『MS IGLOO2』はすごいですよね。CGの映像が本格的な実写映画風だし、あの砂煙の感じや夜の描写とか、リアルな雰囲気はたまらなかったですね。立体的というか写実的というか、奥行き感というのか? 僕の家はアナログテレビですけど、それで観ても奥行き感があるので。アナログだからブラウン管分の奥行きがあるわけじゃないですけど(笑)。あれは何でしょうね? 何であんな風に表現できるのかな? とても不思議ですよね。
 本当にいい仕事ができたので、これからも『MS IGLOO3』、『MS IGLOO4』と続けていただいて、どんどんお役に立ちたいです(笑)。

――今後の活動予定は?

柿島:まだ詳しく発表はできませんが、夏ごろの新番組でエンディングテーマを歌います。あと、3月31日に新横浜でワンマンライブがあります。ライブは、僕のライフワーク的なもので、月に1度のペースでやっています。ホームページでスケジュールをチェックしていただいて、ぜひ会場に足を運んでいただけると嬉しいですね。次のワンマンライブではもちろん、この『PLACES IN THE HEART』も歌わせていただきます!

――では、最後にファンのみなさんに対してメッセージをいただけますか?

柿島:今回、『MS IGLOO2 重力戦線』という作品に、シリーズ初の男性ヴォーカリストとして参加させていただいて、僕が今まで表現したことのない世界観、詞、メロディにチャレンジする事が出来ました。ガンダムファンの方にも、いままで僕の歌を聴いてきてくださったファンの方にも、楽しんでいただける内容になっていると思いますので、みなさん、ぜひ聴いてみてください!

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