Special : 今西隆志監督インタビュー その2

『重力戦線』の最終巻、「オデッサ、鉄の嵐!」の発売まで、残すところあと1ヶ月! そこで今回のスペシャル・インタビューには、再び今西隆志監督にご登場願った。前作とは舞台も趣も異なる新生『IGLOO』の苦労話から、気になる3巻の見どころまで、いまだから話せる秘話の数々。お読み頂ければ、お手持ちのDVD&BRが、一層楽しめること請け合いだ!

……あ、まだ買ってない? そういう方も、読めばソフトを手許に置きたくなりますよ!

 

――今回の『重力戦線』は地上戦をテーマとしていますが、宇宙と違って地面まで作らなければならない地上がメインというのは、大きな挑戦だったのではありませんか?

今西 やはり、覚悟を決めるには時間がかかりましたね。ただそのぶん、これまでのノウハウに加えてリサーチも重ねています。例えば1話に登場する廃墟の街も、実際にヨーロッパで「戦争の傷跡をちゃんと残そう」と、ああいう状態で保存されている村をモデルにしていて、カーブなんかはそのままです。そういう積み上げがあって「やりましょう!」と決断できました。

――出来上がった地上の風景は、夕日の光が妙に赤かったりなど、完全なリアル志向ではない「絵画調」の画も見られましたね。

今西 そもそも夜とか夕日の風景って、一般的な映像イメージが自然光じゃなく照明光なんですよ。『ゴーストバスターズ』のクライマックスも、マシュマロマンはひたすらアッパーライトでしょ? だから今回も、スタッフには「ココはアッパーライトじゃなきゃダメだ! マシュマロマンを見よ!」と、言ったりもしましたね。おかげでD.I.Dは、サンライズのスタジオのなかでも資料の宝庫になってますよ。ミリタリーの資料映像だけでも、膨大に。
これは風景に限った話ではなく、例えば現代の大口径砲の煙って、実は茶色いんです。だから、『ガンダムSEED』でも煙の色指定は茶色になっていて、何も言わないとそれを観たスタッフが茶色に仕上げてくるんですよ。でも『IGLOO』の描く一年戦争世界はちょっとレトロだから、昔の黒色火薬のイメージで、煙は黒くなきゃイカンのです! そういうときは、資料の映像を見せて「これぐらいの砲撃にしてね」と指示していました。

―――レトロといえば、今回の地上戦ではMSの脇に人間がいて、あまつさえザクと戦ってしまうのが新鮮でした。

今西 そこはもう、露骨に狙っていましたから! おかげで1巻の発売後には「主役のMSはいつ出るんですか?」って、悪気じゃなく聞かれちゃったぐらいです。やはり「ガンダムといえば主役はMS!」と思ってる人は当たり前にいるわけで、普通だったら「お客さん、怒りはじめてない?」と思うところですよね(笑)。逆にガンダム・ワールドをまったく知らないお客さんには、普通の戦争映画だろうし。そこを敢えて両方ハズすというか、蹴たぐりにするというか(笑)、ちょっとヘソの曲がった作品なワケですよ、『IGLOO』は! ガンダム世界を膨らませてはいるんだけど、王道の部分はTVシリーズに任せて、そうじゃない部分を掘り下げている。人間をザクと戦わせて「イヤでしょ、こんなの来たら?」とかね。

――確かに1巻・2巻のザクには「ザク・マシンガンが初めて120ミリ口径に見えた」とか、「『U.C.HARD GRAPH』の61式戦車がデカイのに驚いてたら、その61式をザクが踏んだり蹴ったりしててビビった」なんて声も寄せられていますね。

今西 そういう風に感じてもらえると、ホビー事業部さんと連動した甲斐があります。もちろん映像面でも、敢えてバカっぽい誇張をいれてありますしね。リアルに考えたら「戦車蹴っ飛ばして、ザクの足は大丈夫か?」って心配になるところですが(笑)、コレはそんなお行儀のいい戦いじゃないんだと。敵を倒すためならなんでもする、「野蛮な戦場とは、こういうモノなのだ!」っていう雰囲気は、地上戦ならではだと思いますよ。

――一方、物語では連邦軍側が主役になっていますが……これまたタチの悪い軍隊になってますね(笑)。

今西 実は意外なことに、連邦軍ってジオン以上に描写がなかったんですよ。ファーストでホワイトベースをずーっと追いかけてたから、描かれてるような気がするんだけど、あれだって非正規部隊だし。結局はガンダムが通り過ぎたところにチラッと周りが見えているだけで、中心に据えて描かれたのは『08小隊』ぐらいだった。だから今回は、そこをちゃんと見つめてみたんですが……連邦の士官でイイ人なんて、マチルダさんしかいないじゃない!(笑)レビルさんだって悪いオジサンでしょ? そのへんを誇張すると、ああいうヤンキー軍隊になるわけです。
コレはもう、キャラクターの名前がズバリ表してますよ。ヤンデル、スネルは言わずもがなだし、バーバリーは「バーバリアン」、ぜんぶ「素通りしていく」からスラーで、3巻の主人公は「そんなのアリーヌ?」と。

――えええええ!? そういうノリで名前がついてたんですか?

今西 綴りや音は、ちゃんと現実にあるものになってますけどね。「コイツはギリシア系」とか、そのへんはこだわってますから安心して(?)ください。

――ほかに今回は、1人だけ名前のないキャラクターとして「死神」がいますよね? 個人的には、1話であの美人が出てきた瞬間、「ディスク間違えた?」って思っちゃったんですが。

今西 驚いたでしょ?(笑)ガンダム世界には異質な存在なので、拒絶反応もあるかとは思いましたけど、実はファースト・ガンダムにだって、異質な要素は内包されてましたからね。ニュータイプなんかその最たるもので、ララァは明らかに霊界通信してますから。
ですから今回の死神も、「雰囲気」で味わって欲しいですね。登場する主人公たちが抱く恐怖心の象徴のようなもので、だから固有名詞もバックボーンもないんです。

――その死神が紡ぐ物語も重厚でした。とくに今度の3巻『オデッサ、鉄の嵐!』では、主人公アリーヌと死神の関係も「そうだったのか!」という感じで、大きなキーになっていますし。(※インタビュアーは職権を濫用し、出来立てホヤホヤの3巻を鑑賞しています。抜け駆けゴメン!)

今西 OVAという形態上、『IGLOO』シリーズは「繰り返し観ても面白い」と思って頂けるように作ってあるんです。細かい部分では、ガンダム・ファンなら背景で鳴ってる通信の声から「ああ、これはそういうコトか!」と思えるような仕掛けが用意してあったりとかですね。もちろん今度の3話も同様で、死神とアリーヌのドラマを何度も観て下されば、また違った発見があるはずです。それに気付けば、Tajaさんの歌うエンディング・テーマが、一層胸に響くことでしょう。

――連邦側に「なんじゃコリャー!!」なビックリ兵器が出てくるのをはじめ、映像的にもすこぶる派手な展開で、いままでの集大成のようでした。

今西 それを端的に表しているのが、音ですね。とにかく3話は銃声砲声の物量が桁違いで、いままで私の監督作品でも20分で600発とか700発だったのに、4000発ぐらい鳴ってますから! 5.1chで聞くと、戦場に包まれたような臨場感を体験できると思います。
それと、「繰り返し観る」という点で言えば、ブルーレイ版の映像も楽しんで頂けると思います。実をいうと映像的にはココが前作との最大の違いなんですよ。ヘタするとアラが見えちゃうほどの画質で、いかに「勝負する映像」の空気感を醸し出すかという部分で、困りもし、頑張りもしましたから。見え方は結構違うはずです。もちろんDVDでも繰り返しの鑑賞に堪えますから、末永く楽しんで頂ければ嬉しく思います。

 

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